サンヤマ(総制)の品格(1)|ヨーガスートラ3章7節

ヨーガスートラ第3章7節 サンヤマの立ち位置とは(1)

ヨガインストラクターさん、ヨガ哲学に興味がある人向けに、ヨガの根本経典「ヨーガスートラ」を、わかりやすく解説する記事シリーズ「まいにちスートラ」です。

今回のテーマも、「サンヤマ(総制)」です。
「サンヤマ(総制)」とは、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の後半3部門である「ダーラナー(集中)」「ディヤーナ(瞑想)」「サマーディ(三昧)」の三つを合わせ行う、三位一体のヨガ修行です。
サンヤマを習得したあかつきには、智慧(プラジュニャー)の光が輝くとされます。
そして、サンヤマの実践は段階的に行うものだとされます。

この連載「まいにちスートラ」でのサンヤマに関する記事をまとめます。復習にお役立てください。

今回の記事では、「ヨーガスートラ」第3章7節を扱います。
サンヤマ(総制)はアシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の後半3部門を合わせ行うことですが、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の前半5部門とは修行のフェーズが異なると説明されます。
いったいどのような点で異なるのでしょうか。
具体的に「ヨーガスートラ」を読んでみましょう。

ヨーガスートラ第3章7節|ヨガ修行におけるサンヤマの相対的位地(1)

音|3-7

trayamantaraṅgaṃ pūrvebhyaḥ

トラヤマンタランガン プールヴェーッビャハ

言葉|3-7

trayam-antaraṅgaṃ pūrvebhyaḥ

  • traya:三重の、三の;三より成る、三種の
  • antar-aṅga:内部の、親しき、同族の;内部器官、心臓
  • pūrva:前にある、前の、前面の、東の、先行する、以前の、先の、昔の、伝統の、往時の、前世の

意味|3-7

サンヤマの三つは前のものより内的な部門である

ヨガ八支則における内的部門としてのサンヤマ(総制)

「ヨーガスートラ」第3章7節では、アシュターンガ・ヨガ(ヨガ八支則)の後半3部門は、前半5部門よりも内的な部門であると述べられます。

ヨガ哲学の基礎用語「アンタランガ」とは?

「ヨーガスートラ」第3章7節に登場するサンスクリット・”antaraṅga(アンタランガ)”は、”antar(アンタル)”と”aṅga(アンガ)”という2つの語から構成されます。
“antar(アンタル)”には、「内部」「内の」という意味があります。
“aṅga(アンガ)”には、「肢」「支分」「部分」という意味があります。
ちなみにこの「アンガ」は、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の「アンガ」と同じです。
したがって、「ヨーガスートラ」の文脈から、”antaraṅga(アンタランガ)”は、「内的(な)部門」「内的支分」などと翻訳されています。

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)をおさらい!

ここで、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の各部門と項目をおさらいしましょう!

  1. ヤマ(禁戒)|2章30節~
    ・アヒンサー|2章35節
    ・サティヤ|2章36節
    ・アステーヤ|2章37節
    ・ブラフマチャルヤ|2章38節
    ・アパリグラハ|2章39節
  2. ニヤマ(勧戒)|2章32節~
    ・シャウチャ|2章40節、41節
    ・サントーシャ|2章42節
    ・タパス|2章43節
    ・スヴァーディヤーヤ|2章44節
    ・イーシュヴァラ・プラニダーナ|2章45節
  3. アーサナ(坐法)2章46節
  4. プラーナーヤーマ(呼吸法)2章49節
  5. プラティヤーハーラ(制感)2章54節
  6. ダーラナー(集中)3章1節
  7. ディヤーナ(瞑想)3章2節
  8. サマーディ(三昧)3章3節
今日子

「ヨーガスートラ」第2章29節において、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の八つの部門が紹介されます。

ヨガ八支則がなかなか覚えられない…という人は、第2章29節のスートラを暗唱するのもひとつの方法です。
独特の節回しがあるので、ヨガ八支則の部門を順番に、歌を歌うようにスムーズに覚えられますよ。

以下のブログ記事を参考にしてみてくださいね。

1日5分、ポイントはたった4つ!「ヨガ八支則」の覚え方・初級編
ヨーガスートラを唱えるメリットとおすすめ教材|ヨガ八支則の覚え方 中級

サンヤマ(総制)は、内面・心の領域でのヨガ修行

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の前半5部門は、日々の行動・言動に関する習慣、姿勢・呼吸・感覚の操作などによって、外界や自己の肉体に働きかけ、最終的に精神活動を抑制する実践です。
前半5部門の実践の場は、主に身体の領域となります。
一方で、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の後半3部門(サンヤマ)では、身体的操作はすでに終え、対象への一点集中という精神機能を用いて、精神活動を抑制する直接的な実践です。
外界と直接触れ合う肉体を「外面」とした場合、後半3部門の実践は、「内面」つまり心の領域で行われます。

「ヨーガスートラ」第1章2節において、すでに「ヨーガとはチッタ(心)の活動の制止である」と定義されています。
直接的に精神を扱い、その制御を目指す後半3部門(サンヤマ)は、「ヨーガスートラ」におけるヨガ修行の本来の姿であり、王道といえるでしょう。

まとめ|ヨーガスートラ3章7節

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)における後半3部門にあたるサンヤマ(総制)は、前半5部門に比べると、内的な実践です

今日子

ヨガにおける心の領域での活動は、通常は修行者本人にしか分かりえない微細なものです。
それに対して、身体の領域での活動は、目に見え、実感に富み、操作性が高いため、誰もが始めやすいものですよね。

後半3部門に対して前半5部門は、ヨガ修行における準備部門といえるかもしれません。

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それでは、本日はここまで。次回をお楽しみに。

参考文献・資料

  • Sage Patanjali’s Yogasutras – Chanting by Dr Rajani Pradhan
    Youtube動画、広告表示あり。女性の声。
  • 『サンスクリット全解 ヨーガ・スートラ「講義」 附:ヨーガスートラを読むためのサンスクリット講義』 菅原誠 NextPublishing Authors Press (2021)
  • 『Certificate of Yoga Professionals: Official Guidebook』  Excel Books (2016)
  • 『図説ヨーガ・スートラ』 伊藤 武 出帆新社 (2016)
  • 『やさしく学ぶヨガ哲学 ヨーガスートラ』 向井田みお アンダーザライト (2015)
  • 『ヨーガ・スートラ パタンジャリ哲学の精髄 原典・全訳・注釈付』 アニル・ヴィディヤーランカール(著), 中島巖(編訳) 東方出版 (2014)
  • 『漢訳対照 梵和大辞典』 荻原雲来, 鈴木学術財団  山喜房佛書林 (2012)
  • 『インテグラル・ヨーガ―パタンジャリのヨーガ・スートラ』 スワミ・サッチダーナンダ めるくまーる (2008)
  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『解説ヨーガ・スートラ』 佐保田鶴治 平川出版社 (1983)
  • 『ヨーガ書註解 – 試訳と研究 』 本多恵 平楽寺書店 (1978)
  • 『中公バックス世界の名著1バラモン教典・原始仏典』  中央公論社 (1969)