サンヤマ(総制)の品格(2)|ヨーガスートラ3章8節

ヨーガスートラ第3章8節 サンヤマの品格とは(2)

「ヨーガスートラ」第3章「ヴィブーティ・パーダ(能力部門)」から、「サンヤマ(総制)」について順次確認してきました。

「サンヤマ(総制)」とは、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の後半3部門を合わせて行うヨガ修行です。

この連載「まいにちスートラ」でのサンヤマに関する記事をまとめます。復習にお役立てください。

前回の記事・第3章7節では、アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)における後半3部門にあたる「サンヤマ(総制)」は、前半5部門に比べると、内的な実践であると位置づけられました。

続く第3章8節では、別の観点から「サンヤマ(総制)」を位置づけ、まだまだ修行は終わらないことが示唆されます。
それでは、具体的に「ヨーガスートラ」を読んでみましょう。

ヨーガスートラ第3章8節|ヨガ修行におけるサンヤマの相対的位地(2)

音|3-8

tadapi bahiraṅgaṃ nirbījasya

タダピ バヒランガン ニルビージャッシャ

https://youtube.com/clip/UgkxYH8phDQsyKuvRg0EXD8PYqaqBj6gpPWn?si=nJgQhk6j-cTpEyro

言葉|3-8

tat-api bahiraṅgaṃ nirbījasya

  • tad:それ、かれ
  • api:また、同様に、さえも、されど、なお
  • bahir-aṅga:外部の、本質的でない
  • nir-bīja:無種子、種子のない

意味|3-8

しかしサンヤマでさえニルビージャ・サマーディより外的な部門である

ヨガ修行最終段階の外的部門としてのサンヤマ(総制)

「ヨーガスートラ」第3章8節では、サンヤマ(総制)ですら、ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)よりも外的な部門であると述べられます。

今日子

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の後半3部門である「ダーラナー(集中)」「ディヤーナ(瞑想)」「サマーディ(三昧)」の三つを合わせ行うサンヤマ(総制)。
ヨガ修行者が、ヨガ八支則の全八部門をコンプリートしたとて、修行にまだ先があるらしい、ということが知らされます。

ヨガ哲学の基礎用語「バヒランガ」とは?

「ヨーガスートラ」第3章8節に登場するサンスクリット・”bahir-aṅga(バヒランガ)”は、”bahis”と”aṅga”という2つの語から構成されます。
“bahis”には、「外側に」「外に」という意味があります。
“aṅga”には、「肢」「支分」「部分」という意味がありましたね。

ひとつ前のスートラ・第3章7節に登場したのは ”antaraṅga(アンタランガ)”という言葉で、「内的(な)部門」「内的支分」という日本語に訳されました。
第3章8節の “bahir-aṅga(バヒランガ)” は 第3章7節の ”antaraṅga(アンタランガ)”の対義語にあたり、「外的(な)部門」「外的支分」という日本語に訳されます。

そして、 “bahir-aṅga(バヒランガ)”の辞書的な意味として「本質的でない」という意味があることにも注目です!

種子のない三昧「ニルビージャ・サマーディ」とは?

「ヨーガスートラ」第3章8節に登場するサンスクリット “nir-bīja(ニルビージャ)” 。
“nir”と”bīja”という2つの語から構成されます。
“nir”は、「非」「無」「~のない」という意味の接頭語です。
“bīja(ビージャ)”は、「種子」「要素」「源泉」「発端」などという意味があり、「ヨーガスートラ」に度々登場する概念です。

第3章8節のスートラ原文では、”nir-bīja(ニルビージャ)”つまり「無種子」と表現されていますが、日本語訳では「無種子三昧」と、「三昧」が補足されるのが通例です。
実は「ヨーガスートラ」第1章51節に「ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)」がすでに紹介されており、「ニルビージャ」の一言で、文脈上は「ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)」を指す、という了解があるためです。

今日子

ちなみに「ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)」とは、第1章51節において「総てのサンスカーラがニローダされたサマーディ」と定義されます。

ヨガ哲学において「サンスカーラ」も重要な概念なのですが、ここでの説明はいったん保留します。
「ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)」とは、相当に深まったフェーズのサマーディ(三昧)であると認識しておきましょう。

まとめ|ヨーガスートラ3章8節

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)における後半3部門にあたるサンヤマ(総制)は、前半5部門に比べると、内的な実践でした。

しかし、サンヤマ(総制)ですら、ニルビージャ・サマーディ(無種子三昧)に比べれば、まだまだ外的な部門なのです

今日子

アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)の八部門を制しても、まだまだ先があるようですね!
「ヨーガスートラ」時代のヨガ修行、いったい全体どうなっているのか…⁉

私も「全容はこの後すぐ!」と言いたいところですが、ヨガ哲学を学ぶには、ポイントとなる基礎用語・概念をひとつひとつ理解し積み重ねていくことが大事です。
面倒なのですが、結果的にそれが一番の近道になります。

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今日子

さて、今回の記事で、サンヤマ(総制)のトピックはいったん区切りをつけます。
しかし、読み物としての「ヨーガスートラ」は、読み手を翻弄しながら、ヨガ修行のクライマックスに向かう、非常に面白いところです。

研究者によっては、第3章「ヴィブーティ・パーダ(能力部門)」は、サンヤマ(総制)で得られる超自然能力が雑然と説かれるとか、ヨガ修行の本質ではない、などと吐き捨てられていますが、そんなことはありません。

この連載「まいにちスートラ」では、この後「ヤマ」「ニヤマ」部分の解説を行い、「アシュターンガ・ヨーガ(ヨガ八支則)」の八部門をコンプリートします。

そしてまたいずれ第3章に戻ってきます。

引き続き、ヨガ哲学の学びを楽しんでくださいね!

参考文献・資料

  • Sage Patanjali’s Yogasutras – Chanting by Dr Rajani Pradhan
    Youtube動画、広告表示あり。女性の声。
  • 『サンスクリット全解 ヨーガ・スートラ「講義」 附:ヨーガスートラを読むためのサンスクリット講義』 菅原誠 NextPublishing Authors Press (2021)
  • 『Certificate of Yoga Professionals: Official Guidebook』  Excel Books (2016)
  • 『図説ヨーガ・スートラ』 伊藤 武 出帆新社 (2016)
  • 『やさしく学ぶヨガ哲学 ヨーガスートラ』 向井田みお アンダーザライト (2015)
  • 『ヨーガ・スートラ パタンジャリ哲学の精髄 原典・全訳・注釈付』 アニル・ヴィディヤーランカール(著), 中島巖(編訳) 東方出版 (2014)
  • 『漢訳対照 梵和大辞典』 荻原雲来, 鈴木学術財団  山喜房佛書林 (2012)
  • 『インテグラル・ヨーガ―パタンジャリのヨーガ・スートラ』 スワミ・サッチダーナンダ めるくまーる (2008)
  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『解説ヨーガ・スートラ』 佐保田鶴治 平川出版社 (1983)
  • 『ヨーガ書註解 – 試訳と研究 』 本多恵 平楽寺書店 (1978)
  • 『中公バックス世界の名著1バラモン教典・原始仏典』  中央公論社 (1969)

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