プラティヤーハーラ(制感)とは?|ヨーガスートラ 2章54節
「ヨーガスートラ」から、ヨガ八支則の第五の部門「プラティヤーハーラ(制感)」に関するスートラを音読し、意味を理解していきしょう。
「まいにちスートラ」は、一記事一節、つまりひとつの記事あたり「ヨーガスートラ」一節を紹介しています。
いつでも、どこでも「ヨーガスートラ」のサンスクリット、読み方、言葉の意味、訳語を確認できます。
ヨガ哲学の勉強に、活用してくださいね!
ヨーガスートラ2章54節|プラティヤーハーラの定義
音|2-54
svaviṣayāsaṃprayoge cittasya svarūpānukāra ivendryāṇāṃ pratyāhāraḥ
スヴァ ヴィシャヤー サンプラヨーゲー チッタッシャ スヴァルーパーヌカーラ イヴェーンドリヤーナーン プラッティヤーハーラハ
https://youtube.com/clip/UgkxFu_RmHmf5cNRbBmrb2pfyZeYDbKiojgm?si=yTJ3IeXHjJFze_W6
言葉|2-54
sva-viṣaya-asaṃprayoge cittasya svarūpa-anukāraḥ iva-indryāṇāṃ pratyāhāraḥ
- sva:自身の、私の
- viṣaya:感覚、物質、活動領域、感覚の対象
- asaṃprayoga:非結合、非接触
- citta:チッタ、心
- rūpa:概観、色、形態
- anukāra:似せた、模した
- iva:~のように、あたかも
- indriyāṇām:[indriyaの複数形]インドリヤ、感覚器官、感官の
- pratyāhāra:プラティヤーハーラ、制感、感官の制御、感官の抑制
意味|2-54
諸々のインドリヤ(感覚器官)が本来の対象と切り離され、まるでチッタそのもののようになるのがプラティヤーハーラ(制感)である
プラティヤーハーラとは?
「ヨーガスートラ」第2章54節では、プラティヤーハーラの定義が述べられました。
プラティヤーハーラは、日本語で「制感」「感官の抑制」などと訳されますが、訳語だけでは意味内容が分かりづらい概念です。
まずは、「ヨーガスートラ」本文から、プラティヤーハーラとは何かを抽出し確認しましょう。
「プラティヤーハーラ」のサンスクリットの意味は?
“pratyāhāra(プラティヤーハーラ)”というサンスクリットは、”prati(プラティ)”と、”āhāra(アーハーラ)”の 二語からなります。
それぞれの意味は、
prati(プラティ):反対
āhāra(アーハーラ):取り入れること
です。
“pratyāhāra(プラティヤーハーラ)”で、「取り入れないこと」という意味になります。
日本語では「プラティヤハーラ」と読み書きされることが多いのですが、正しくはヤとハの間を伸ばして「プラティヤーハーラ」、もしくは「プラッティヤーハーラ」となります。
プラティヤーハーラとは、感覚機能を休止させること
ではいったい、プラティヤーハーラでは「何を」取り入れないのでしょうか?
プラティヤーハーラにおいて「取り入れないもの」とは、感覚器官の対象となる外部刺激です。
プラティヤーハーラは、「まるで亀が甲羅の中に手足を引っ込めるように」感覚器官が対象となる外部刺激から撤退すること、と表現されたりもします。
このように、感覚機能をオフにすることがプラティヤーハーラなのです。
ヨガ哲学における感覚器官「インドリヤ」とは?
「ヨーガスートラ」第2章54節で述べられる感覚器官というのは、サンスクリットの”indriya(インドリヤ)”です。
インドリヤは、ヨガ哲学理解の重要キーワードですから、簡単に説明します。
ヨガ哲学において、インドリヤとは、外部の刺激を知覚するための肉体的な器官・感覚受容器です。
インドリヤは、耳・身・眼・舌・鼻の5つからなるとされます。
5つの感覚器官はそれぞれ、声・触・色・味・香という外部刺激をキャッチするセンサーの役割を担い、聴覚・触覚・視覚・味覚・嗅覚という五感の道具となります。
5つのインドリヤ (五感覚器官) | インドリヤの対象 (五微細元素) | 機能 |
---|---|---|
耳 | 声(音) | 聴覚 |
身 | 触(温度や凹凸や形、圧力など) | 触覚 |
眼 | 色(光、詳細な形など) | 視覚 |
舌 | 味 | 味覚 |
鼻 | 香(臭い) | 嗅覚 |
機能を休止した「インドリヤ」がまるで「チッタ」のようになる
そして、プラティヤーハーラでは、感覚機能がオフになった感覚器官インドリヤ(耳・身・眼・舌・鼻)が、その対象(声・触・色・味・香)をとらえず、まるで「チッタ(心)」そのものようになる、つまり、インドリヤがチッタのレプリカのようになると、「ヨーガスートラ」第2章54節では述べています。
また、ヴィヤーサは註解で、チッタの活動が抑制される時、チッタと同じくインドリヤも抑制される、と解説しています。
「チッタ」とは、ヨガ哲学における「心」「総合的な精神作用」のことでした。
チッタについておさらいする人は、「そもそもヨガとは?|ヨーガスートラ 1章2節」の記事で確認してくださいね。
まとめ|ヨーガスートラ2章54節
「ヨーガスートラ」第2章54節では、プラティヤーハーラ(制感)の定義が述べられました。
プラティヤーハーラとは、外部刺激の感覚受容器「インドリヤ」の機能が休止し、まるで「チッタ」そのもののような状態になることです。
ヨーガの八部門からなる実践法「ヨガ八支則」において、プラティヤーハーラは、修行者の注意の対象が外部の刺激ではなく、自らの内部へと移行していく部門となります。
呼吸法や瞑想で目を閉じるのは、目から入る視覚情報を取り入れないという、プラティヤーハーラのテクニックの1つと言えます。
また、ヨガのレッスンで自分の出来を周りの人と比べなくなることは、プラティヤーハーラの鍛錬が進んでいる、ということです。
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それでは、本日はここまで。次回をお楽しみに。
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参考文献・資料
- Sage Patanjali’s Yogasutras – Chanting by Dr Rajani Pradhan
Youtube動画、広告表示あり。女性の声。 - 『サンスクリット全解 ヨーガ・スートラ「講義」 附:ヨーガスートラを読むためのサンスクリット講義』 菅原誠 NextPublishing Authors Press (2021)
- 『Certificate of Yoga Professionals: Official Guidebook』 Excel Books (2016)
- 『図説ヨーガ・スートラ』 伊藤 武 出帆新社 (2016)
- 『やさしく学ぶヨガ哲学 ヨーガスートラ』 向井田みお アンダーザライト (2015)
- 『ヨーガ・スートラ パタンジャリ哲学の精髄 原典・全訳・注釈付』 アニル・ヴィディヤーランカール(著), 中島巖(編訳) 東方出版 (2014)
- 『インテグラル・ヨーガ―パタンジャリのヨーガ・スートラ』 スワミ・サッチダーナンダ めるくまーる (2008)
- 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
- 『解説ヨーガ・スートラ』 佐保田鶴治 平川出版社 (1983)
- 『ヨーガ書註解 – 試訳と研究 』 本多恵 平楽寺書店 (1978)
- 『中公バックス世界の名著1バラモン教典・原始仏典』 中央公論社 (1969)
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