プラーナーヤーマの2つの効果(2)|ヨーガスートラ 2章53節

ヨーガスートラ第2章53節|プラーナーヤーマの2つの効果(2)

ヨガ哲学を分かりやすく学びたい人が最初に読むべき本は、「ヨーガスートラ」です。

今日子

読んでみたけど「ヨーガスートラ」の日本語訳の書籍が難しすぎた、ということで、このページにたどりついた貴方。
ようこそおいでくださいました。

「まいにちスートラ」では、「1日3分でヨーガスートラが分かる」をモットーに、一節ずつ、シンプルに紹介します。

さて、前回の記事・第2章52節では、プラーナーヤーマ(呼吸法)の2つの効果のうちの1つを確認しました。
プラーナーヤーマが完成すると、智慧という光を覆っていたカバーが取り除かれ、智慧の光が輝きを取り戻します。

今回は、第2章53節、プラーナーヤーマの効果の2つめを確認していきましょう。

ヨーガスートラ2章53節|プラーナーヤーマの効果(2)

音|2-53

dhāraṇāsu ca yogyatā manasaḥ

ダーラナース チャ ヨーギャター マナサハ

https://youtube.com/clip/UgkxOelMGiH6QrJc2Cb_gpGampi8ATZKyMxT?si=ubEdA_AI2nRSBdfn

言葉|2-53

  • dhāraṇā:ダーラナー、精神の制御、保持すること、維持すること
  • ca:また、および、まさに、なお、しかしながら、もし
  • yogyatā:能力、適合性
  • manas:内的器官、理解力、知力、精神、心情など

意味|2-53

また、マナス(知覚機能)はダーラナー(集中)における適応性を得る

「ヨーガスートラ」における「マナス」とは?

「ヨーガスートラ」第2章53節では、プラーナーヤーマの2つの効果の2つめが提示されます。

プラーナーヤーマの完成により、”manas(マナス)” が “dhāraṇā(ダーラナー)”に適合する、つまり、相応しい状態になる、といいます。

「ダーラナー」とは、ヨガ八支則のうちの第六の部門で「集中」のことです。
ダーラナーは、日本語では、凝念(ぎょうねん)、総持(そうじ)とも訳されます。

では、第2章53節の「マナス」とは、何でしょうか?

「マナス」のもともとの意味とは?

サンスクリットの ”manas(マナス)” の語根は √man(マン)で、思う・考える、という意味です。
サンスクリットの “mati(マティ:考え)” 、 “mantra(マントラ:真言)”、 英語の “man(人)” 、”mind(心)” も、語源が同じく √man(マン)です。

先に紹介したように、「マナス」は広い意味で、知力や精神、心情などを表します。

「ヨーガスートラ」における「マナス」の日本語訳は?

「ヨーガスートラ」の先行研究において、マナスは、「心」、「意(い/こころ)」、「意識」などの日本語に訳されてきました。

しかし、「心」という訳語は第1章2節ですでに、”citta(チッタ)”に対してあてがわれていましたよね。
マナス、チッタも両方とも「心」として処理すると、混乱してしまいます。

一方で、「意」は、マナスを意訳した仏教用語で少々とっつきにくい。

それでは、マナスを「意識」と訳してしまうとどうでしょう。
やや大づかみではないかというのが、私の意見です。
日本語の「意識」に相当する重要概念も、後々登場しますので、マナスに対して、今「意識」という言葉を使いたくないのです。

今日子

インドでは、精神作用に関係する概念、言葉のバリエーションが豊富なのかもしれません。

「ヨーガスートラ」における「マナス」の解釈は?

この「マナス」問題をスッキリさせるには、ヨガ哲学の論理のベースとなる、サーンキヤ哲学の知識が必要です。

サーンキヤ学派において、”citta(チッタ:心)”に相当する精神機能は、”antḥakaraṇa(アンタカラナ:内的器官)”といいます。サーンキヤの「アンタカラナ」は3つから構成されます。

サーンキヤ学派の「心」、アンタカラナ(内的器官)の3つ

  1. buddhi(ブッディ):判断機能
    認識した情報を統合し、価値判断、意思決定を行う作用。
  2. ahankāra(アハンカーラ):自我機能
    自分を主体、それ以外を客体とする、自己中心的な意識作用。知覚した情報を自分を中心に関連付ける作用。
  3. manas(マナス):知覚機能
    外的器官である感覚器官と行動器官を通して外界と接し、イメージを形成する作用。

これらの精神構造は、科学的な根拠があるわけではなく、思想・哲学探究の枠組みにおける1つの仮説と考えておくといいでしょう。

さて、「ヨーガスートラ」を読むうえでの、狭い意味での「マナス」は、「精神機能:アンタカラナ」のうちの1つ「マナス」として捉えてよいと思います。

マナスは、精神作用のうち、知覚機能を担います。
感覚器官を道具として外界の情報を取り入れ、イメージを生成し、知覚処理を行います。
「今、こころを占有している思い」「あれやこれやと取り留めなくうつろう思い」というのが、まさにマナスの作用です。

インドにおいてマナスは、しばしば猿に例えられるそうです。
一瞬たりともじっとせず、次から次へと注意が移り、衝動的で誘惑に駆られ、落ち着かないもの、という例えです。

自己と外部と中間に位置し、関心は外に向かい、外部の刺激に真っ先にさらされ、落ち着くことが難しい「マナス」。

伊藤武先生は、「このマナスを内に向けることが、ヨーガの第一歩となる。」と、著書の中で述べています。

まとめ|ヨーガスートラ2章53節

「ヨーガスートラ」第2章53節では、プラーナーヤーマ(呼吸法)の完成によって得られる効果のうちの2つめが説明されました。

プラーナーヤーマの完成によって、マナス(知覚機能)は、ヨガ八支則の第六の部門ダーラナー(集中)の修行に相応しい状態に落ち着くようになります。

今日子

「ヨーガスートラ」を読むには、サーンキヤの基礎知識が必要です。
「マナス」を始め、「観る者」「観られるもの」「識別知」「純質・激質・翳質」「開展」などは、サーンキヤ由来の概念です。
ヨガ哲学をちゃんと理解したいと思っている人は、サーンキヤの基礎を避けて通れません。

一緒に、少しずつ学んでいきましょう

知っておきたいインド思想の基礎知識を解説
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それでは、本日はここまで。次回をお楽しみに。

参考文献・資料

  • Sage Patanjali’s Yogasutras – Chanting by Dr Rajani Pradhan
    Youtube動画、広告表示あり。女性の声。
  • 『サンスクリット全解 ヨーガ・スートラ「講義」 附:ヨーガスートラを読むためのサンスクリット講義』 菅原誠 NextPublishing Authors Press (2021)
  • 『Certificate of Yoga Professionals: Official Guidebook』  Excel Books (2016)
  • 『図説ヨーガ・スートラ』 伊藤 武 出帆新社 (2016)
  • 『やさしく学ぶヨガ哲学 ヨーガスートラ』 向井田みお アンダーザライト (2015)
  • 『ヨーガ・スートラ パタンジャリ哲学の精髄 原典・全訳・注釈付』 アニル・ヴィディヤーランカール(著), 中島巖(編訳) 東方出版 (2014)
  • 『インテグラル・ヨーガ―パタンジャリのヨーガ・スートラ』 スワミ・サッチダーナンダ めるくまーる (2008)
  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『解説ヨーガ・スートラ』 佐保田鶴治 平川出版社 (1983)
  • 『ヨーガ書註解 – 試訳と研究 』 本多恵 平楽寺書店 (1978)
  • 『中公バックス世界の名著1バラモン教典・原始仏典』  中央公論社 (1969)

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