インストラクターが知っておくべきヨガ用語「マインドフルネス」言葉の由来とは

マインドフルネス(mindfulness)は、英語です。
マインドフルネスを日本語に直訳すると、「忘れないでいること」「注意を払うこと」という意味です。「気づき」「注意深さ」と翻訳される場合もあります。

マインドフルネスを一躍有名にしたのは、アメリカ生まれの「MBSR」という心理療法です。今さら聞けない「マインドフルネス」と「ヨガ」の違いとは? という記事で、すでに紹介しました。

さて、ヨガのレッスン名として「マインドフルネス」という言葉が使われているのをよく見かけますね。
このようにヨガ業界でも、お客様に伝わりやすい言葉として「マインドフルネス」を採用しています。

したがって、「マインドフルネス」は、ヨガインストラクターなら絶対に知っておきたいヨガ用語。
ヨガの先生は、正しく理解しているかどうか、ぜひこの記事を読んでチェックしてくださいね。

それでは、「マインドフルネス」の言葉としての意味や、ルーツを探っていきましょう。

「マインドフルネス」の由来は仏教経典の英語訳

マインドフルネスは、パーリ語「サティ(sati)」の英訳です。
パーリ語は、上座部仏教の経典に使用されている言語です。
そして「サティ」という語は、「記憶」や「思い出すこと」を意味します。

上座部仏教は、テーラワーダ仏教とも呼ばれ、現在ではタイ・ミャンマーなど東南アジアで信仰されている仏教です。
中国・日本など東アジアに伝わった大乗仏教とは多くの部分で教義が異なり、ブッダ本人が説いたとされる原始仏教の性格が色濃く残っています。

1880年ごろ、上座部仏教の経典「サティパッターナ・スッタ(大念住経または大念処経)」が、”The foundations of mindfulness” と英訳されました。
そして、1910年ごろにはパーリ語の「サティ(sati)」の英訳として「マインドフルネス(mindfulness)」が定着していきました。

※「サティパッターナ・スッタ」には、四念処(しねんじょ)という、ブッダのオリジナルの瞑想法が説かれています。

「マインドフルネス」の言葉の由来はヨガにも通じる

「マインドフルネス」という言葉は、パーリ語「サティ」の英語訳でした。
この「サティ」という言葉は、じつはヨガにも大いに関わってきています。

ヨガの教えは、インドの文語・サンスクリットで語り継がれてきました。
パーリ語の「サティ」に相当するサンスクリットは「スムルティ」です。

ヨーガ・スートラに登場する「マインドフルネス」

ヨーガの根本教典『ヨーガ・スートラ』において、「スムルティ」は(1)「記憶」、(2)「心にとどめておくこと」の2つの意味で登場します。
ここで、マインドフルネスの意味に近いのは、(2)「心にとどめておくこと」のほうです。
仏教の用語では「憶念(おくねん)」と呼ばれます。

『ヨーガ・スートラ』第1章20節には、この「スムルティ:憶念」を含めた5つの徳を極めると、無心に近いより深い瞑想に至るとされています。

ヨーガ行者たちには、シュラッダー(信念)・ヴィールヤ(精進)・スムルティ(憶念)・サマーディ(三昧※)・プラッニャー(智慧)にもとづいて、アサンプラッニャータ・サマーディ(対象への意識がないサマーディ|無想三味)が起こります。

※サマーディ(三昧)とは、深い瞑想状態のこと。

『ヨーガ・スートラ』第1章20節

ヨガは、仏教と思想が共通する部分がある

『ヨーガ・スートラ』第1章20節における5つの徳は、仏教では「五根(ごこん)」と呼ばれます。
もともと、インドの行者がこれらの徳を尊重していたのを、仏教が取り入れて体系化したのが「五根」とされます。
そして仏教の「五根」が、ヨガの根本経典『ヨーガ・スートラ』にそのまま取り入れられました。

インドで古くから行われていたヨーガ修行としての瞑想が、仏教に影響を与え、のちにヨーガ側も仏教の教義を取り入れ…というように、ヨガと仏教はお互いに関わり合いながら発展してきました。

したがってヨガは、言葉のルーツ・瞑想実践のルーツとしても、マインドフルネスに関連があるのです。

まとめ:マインドフルネスという概念の生まれ故郷は、インド

今日は、「マインドフルネス」を、言葉のルーツという観点から深堀りしました。いかがでしたでしょうか。

マインドフルネス(mindfulness)は、「記憶」「思い出すこと」という意味のパーリ語「サティ」の英語訳です。
パーリ語で書かれた仏教経典が英語に翻訳されたのが始まりです。
そして、パーリ語「サティ」は、サンスクリット「スムルティ」に相当します。
サンスクリットで書かれたヨーガ学派の経典には、パーリ語の「サティ」と同じ意味で「スムルティ」が登場します。
古代インド生まれのヨーガと仏教は思想的な共通点が多々ありますが、「マインドフルネス」という言葉においても、関係が深かったのですね。

ヨガの実践において、マインドフルネスとは、スムルティ:心にとどめておくこと、注意を払うこと、です。
このマインドフルネス・スムルティは、ヨーガにおいては瞑想レベルを一段深める5つのテクニックのうちの1つです。

マインドフルネスは、いにしえのインドから脈々と受け継がれた、瞑想を深めるための大切なテクニックだったというわけです。

ヨガスタジオや、ヨガの先生が、レッスン名に「マインドフルネス」を使用する場合、言葉のルーツや意味のうえからも「瞑想」は欠かせない要素になるでしょう。
音の響きの良さなどから、なんとなく「マインドフルネス」とネーミングしてしまうと、後々矛盾が生じることになるかもしれませんので、気を付けたいですね。

参考文献

  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『マインドフルネスストレス低減法』 ジョン・カバットジン 北大路書房 (2007)
  • 『 マインドフルネスとスピリチュアリティ』 井上ウィマラ 人間福祉学研究 第7巻1号 (2014)

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