ヨガとは何? 温故知新・歴史から学ぶヨガ誕生ストーリー

ヨガとは何? 温故知新・歴史から学ぶヨガ誕生ストーリー

ヨガ(ヨーガ)とは、一体、何でしょうか。

…インド由来の健康法?
…心と身体を整えるトレーニング?
…精神統一の修行?
…マインドフルネスの実践?
…柔軟性や体力がアップする美容法?
 
ヨガインストラクターであっても、その答えは案外、難しいものです。
ヨガの定義について、絶対的な正解はありません。
ヨガが長い時間をかけて受け継がれ、変化・進化し、インドから世界に広がっていった経緯と関係しています。

そこで、今日は「ヨガとは何か」つまり、ヨガの定義について、ヨガ哲学の歴史と文献をなぞって、おさらいしていきましょう。
温故知新の精神で、ヨガ誕生のストーリーを学ぶと、私たちが今行っているヨガや、ヨガ哲学への理解度が格段にアップしますよ!
ヨガインストラクターさん、ヨガの学びを深めたい人におすすめの記事です。

いにしえの哲学書「ウパニシャッド」におけるヨーガの定義

ヨガの歴史において、「ヨーガ」という言葉が文字となって初めて現れたのは、ウパニシャッドです。
ウパニシャッドとは、古代インドで記された思想・哲学書の総称で、「ヴェーダ」という聖典群の最終層にあたります。
ウパニシャッドは、ひとつの書物ではなく、多数存在し、古いものは紀元前8世紀頃、多くは紀元前5世紀以降の成立とされます。
ウパニシャッドは、言葉の語源から「弟子が師の足元に座り、密かに教えを授かるもの」と解釈されています。

ウパニシャッドの主なテーマは、梵我一如(ぼんがいちにょ)や、輪廻転生(りんねてんせい)です。
梵我一如とは、世界の根本原理ブラフマン(梵)と、自我の原理アートマン(我)は本来同一であるという思想です。
輪廻転生とは、人は死んだ後に生まれ変わることを延々と繰り返すものである、という思想です。

ウパニシャッドは、梵我一如の悟りや、輪廻転生からの永遠の脱却「解脱(げだつ)」の道を説き、今に伝わるインド思想の源泉・ルーツとなっています。

『カタ・ウパニシャッド』におけるヨーガの定義

「ヨーガ」という語が、現代の意味に通じる言葉としてはっきりと文献に記されたのは、紀元前4世紀頃成立の『カタ・ウパニシャッド』です。

第6章10
思考と共に五つの知覚器官が静止し、理解力が動かない時に、それを人は最高の歩みであるという。


第6章11
感覚器官をしっかりと抑制することを、人々はヨーガであると考える
その時に、人は注意深くなる。なぜなら、ヨーガは出現および消失であるからである。

「カタ・ウパニシャッド」より 『ウパニシャッド-翻訳および解説-』 湯田豊 大東出版社 (2000)

紀元前4世紀頃の『カタ・ウパニシャッド』において、ヨーガは以下のように定義されました。

『カタ・ウパニシャッド』ヨーガの定義

  • 感覚器官を抑制し、精神活動を静止させること

ここでいう感覚器官というのは、目・耳・鼻・舌・触覚といった五感をキャッチする働きのこと。
サンスクリットでは、インドリヤといいます。
感覚器官は、外部からの刺激に反応してしまい、心を乱す原因を作り出します。
心が乱れているうちは、人生の究極のゴール・解脱に至ることはできませんから、感覚器官を支配して、心の静止を目指すのです。
『カタ・ウパニシャッド』では、ヨーガを、馬車につながれた馬を手綱で操る御者に例えて説明しました。

この馬車と馬のたとえ(比喩)の表現については、分かりやすいヨガ哲学|馬車のたとえは、何を表しているの? の記事をチェックしてくださいね。

『マイトリ・ウパニシャッド』におけるヨーガの定義

『カタ・ウパニシャッド』の後に、ヨーガはさらに詳しく説明されることになります。

紀元前200年頃の成立とされる『マイトリ・ウパニシャッド』を見ていきましょう。

このように人は、息、オームの音節、および一切を種々に結びつける、あるいはまた、人々が結びつけるので、(瞑想のこのテクニークが)ヨーガであると伝えられる。息と思考の二つ、そして同様に息、思考および感覚器官が一つである状態、および、すべての事物の放棄がヨーガであると名付けられる。

「マイトリ・ウパニシャッド」 第6章25より 『ウパニシャッド-翻訳および解説-』 湯田豊 大東出版社 (2000)

紀元前200年頃の『マイトリ・ウパニシャッド』において、ヨーガは以下のように定義されました。

『マイトリ・ウパニシャッド』ヨーガの定義

  1. 息、オームの音節などに結びつける瞑想の技法
  2. 静止した息と思考を感覚器官とが結合した状態
  3. すべての事物の放棄

そして、静止した息と思考を感覚器官と結合させ観察することで「自己を有しない状態」に達し、宇宙の根源・ブラフマンと見ると説明します。

また、「オーム」の重要性や、呼吸と思考を結びつけるため口蓋に舌の先端を押し付けるテクニックや、身体の中心を通るエネルギーライン「スシュムナー」、ヨーガの6部門からなる実践システムなどが登場します。

『マイトリ・ウパニシャッド』では、『カタ・ウパニシャッド』から具体性を増し、より実践的な内容説明を含む形で、ヨーガが定義されました。

インドの魂『バガヴァッド・ギーター』におけるヨーガの定義

次に、紀元後1世紀頃の成立とされる『バガヴァッド・ギーター』を見ていきましょう。
『バガヴァッド・ギーター』とは、インドの大叙事詩で戦記ストーリー『マハー・バーラタ』の一部を構成する700編からなる詩です。
『バガヴァッド・ギーター』を直訳すると「神の詩(うた)」。
あらゆるインド思想が一神教のもとに折衷・凝縮された、ヒンドゥー教の聖典であり、インド人の生き方指南書であり、魂(たましい)の書です。

『バガヴァッド・ギーター』のストーリーは、戦場で心の迷いを見せた戦士アルジュナに、神・クリシュナが「義務(ダルマ)、行為(カルマ)、神への信愛(バクティ)の道」を説いて奮い立たせる、というもの。
アルジュナとクリシュナの問答の中に、ヒンドゥー教のエッセンスが凝縮されていると言われます。

それでは、この『バガヴァッド・ギーター』のなかで、ヨーガがどのように語られるのか、見ていきましょう。

第2章、クリシュナがアルジュナに行為(カルマ)の教えを授ける文脈で、以下のようにヨーガが定義づけられます。

第2章48
アルジュナよ、執着を捨て、成功と不成功を平等(同一)のものと見て、ヨーガに立脚して諸々の行為をせよ。
ヨーガは平等の境地である。

第2章50
知性をそなえた人は、この世で、善業と悪業をともに捨てる。それ故、ヨーガを修めよ。
ヨーガは諸行為における巧妙さである。

『バガヴァッド・ギーター』 上村勝彦 岩波書店 (1992)

ここでいう行為(カルマ)とは、行い・行動のことです。
何もせずにいることより、結果がどうであれ「行動すること」が求められています。
ヨーガとは、行為における平等の境地であり、知性を確立し行為に専心すること と定義されました。

そして、ヨーガ実修者の心得や修行の様子とその成就がテーマの第6章の冒頭で、以下のように述べられます。

第6章1節
聖バガヴァットは告げた。
行為の結果にこだわらず、なすべき行為をする人は、放擲者(サンニャーシン)でありヨーギンである。…

第6章2節
放擲(サンニャーサ)と言われるもの、それをヨーガと知れ。アルジュナよ。というのは、意図(願望)を放擲しないヨーギンは誰もいないから。

『バガヴァッド・ギーター』 上村勝彦 岩波書店 (1992)

ヨーガとは、自己の願望の放擲(ほうてき:投げ出すこと。捨ててかえりみないこと)である、と定義されました。


さらに、ヨーガ修行が成就した者の様子を語る文脈で、こう続きます。

第6章23
そのような、苦との結合から離れることが、ヨーガと呼ばれるものであると知れ。このヨーガを、ひるむことなく決然と修めよ。

『バガヴァッド・ギーター』 上村勝彦 岩波書店 (1992)

ここではヨーガとは、強烈な負の感覚・感情である「苦しみ」との一体化からの離脱である、と述べられます。
また、それに先立ち、節度をもってヨーガを行じれば、苦を滅する、みじめさ・悲しみを破壊することができるとも、述べられています(第6章16-17)。

紀元後1世紀頃成立の『バガヴァッド・ギーター』において、ヨーガは以下のように定義されました。

『バガヴァッド・ギーター』ヨーガの定義

  1. (行為における)平等の境地
  2. 諸行為における巧妙さ
  3. 放擲(ほうてき:行為の結果にこだわらず、なすべき行為をすること)
  4. 苦との結合から離れること

なお、ヨーガの二次的な定義として、ブラフマンとの合一(ブラフマ・ブータ)(第5章19-20、第6章27-32)ということも述べられます。

『バガヴァッド・ギーター』は、神・クリシュナの教え(知性)をもって感覚器官や自己を制御し、心の迷いを払い、なすべき行為をなし、人生のゴール・解脱へ向かうべし、と説きます。
『バガヴァッド・ギーター』におけるヨーガは、瞑想によって心を鎮める実践のみならず、インド人としての理想の生き方をも含めた広い意味での定義と考えてよいでしょう。

ヨガの理論書『ヨーガ・スートラ』におけるヨーガの定義

『ヨーガ・スートラ』編纂者パタンジャリの像

『ヨーガ・スートラ』は、ウパニシャッドも含むヴェーダ聖典群の権威を認める六つの派閥、六派哲学のうちのひとつ、「ヨーガ学派」の根本経典です。
紀元前3世紀頃から徐々に整った形になり、現在の形になったのは5世紀頃とされています。
内容は4章に章立てられており、全195節の詩(スートラ)で構成されています。

それでは、『ヨーガ・スートラ』におけるヨーガの定義を見ていきましょう。
根本経典とあって、冒頭でいきなり登場します。

第1章1節
さて、ヨーガの教えが始まる。
 [ヴィヤーサ註解]
 「ヨーガ」とは三昧(サマーディ)である。そうしてそれはあらゆる段階(状態)を通じて存する心の性質である。…

第1章2節
ヨーガとは、心のはたらきの止滅(チッタ・ブルッティ・ニローダハ)である。

『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)

ここで、「ヴィヤーサ註解」について説明します。
『ヨーガ・スートラ』は、詩の形式で書かれているため、当時の人にとっても分かりづらいところがあったのでしょう。
詩の言わんとするところをくみ取るため、賢者の解説(註釈)が施されました。
もっとも古く権威のある註釈書が、紀元後500年頃の人物、ヴィヤーサによる『バーシャ』で、「ヴィヤーサ註」と呼ばれます。
「ヴィヤーサ註」は、古くから『ヨーガ・スートラ』と一体のものとして考えられてきました。
したがって、ヴィヤーサによる解説「ヴィヤーサ註解」は、ヨーガ・スートラの詩の意味するところを補完する大切なものという扱いになっています。

紀元後5世紀の『ヨーガ・スートラ』では、編纂者パタンジャリと、解説者ヴィヤーサによって、次のように定義されました。

『ヨーガ・スートラ』ヨーガの定義

  1. サマーディ:深い瞑想状態
  2. 心の作用の抑制/コントロール

『ヨーガ・スートラ』は、冒頭で高らかに定義を宣言した後、サマーディに至るための実践方法や、修行で得る特別な力、様々なサマーディの段階、サマーディで悟る特別な知恵、そしてカイヴァリヤと呼ばれるヨーガ派の解脱について述べていきます。

『ヨーガ・スートラ』におけるヨーガとは、心の状態の抑制を極める実践そのものです。
サマーディというゴールを目指して、いくつかの実践方法が提示されます。
そのうちの1つが、有名な、8部門からなるヨーガ実践法「ヨガ八支則」です。
『ヨーガ・スートラ』は、瞑想を通じて解脱を目指しました。

『ヨーガ・スートラ』によって、それまで広範囲に取り扱われていたヨーガへの定義や見解が、取捨選択され、独立したものとして体系化されました。

まとめ:温故知新の精神で、自分のヨガを見つけよう

いかがでしたでしょうか。
今回は、インド思想の古典文献「ウパニシャッド」『バガヴァッド・ギーター』『ヨーガ・スートラ』におけるヨーガの定義を見ていきました。

どの文献でも、ヨーガを行う動機となるのが、解脱です。
インド思想における最終ゴールは、輪廻転生から離脱し、もう二度と生まれ変わらないこと。
そのために専心する、自己を律する、感覚器官を抑制する、心を鎮める、といった行いが推奨されました。

現代でヨガを行う私たちの動機とはずいぶん違い、驚かされます。
逆に、インドの人達にとって、「アーサナができるようになりたい!」「キレイになりたい」などを動機に、熱心にヨガを行う私たちの日本人の姿は、珍妙に映っているかもしれません。

しかし、ヨガをすることで、自分がより良く在りたい、と願う動機は共通です。
ヨガは、誰かと競争したり、他者や自己をおとしめたり、苦しめたりするものではなく、ただただ自分のために、自ら取り組むものです。

2千数百年も前の人も抱いた想いや技法が脈々と受け継がれた末に、今、私たちがヨガの恩恵を受け取っていることに、心強さを感じますね。

ヨガでも、温故知新の心を大切に。
実践やヨガ哲学の学びを通して、「あなたにとってのヨガ」を、探求して参りましょう。

参考資料

  • 『やさしく学ぶYOGA哲学 ウパニシャッド』 向井田みお アンダーザライト (2009)
  • 『ヨーガの思想』 山下博司 講談社 (2009)
  • 『インド人の考えたこと-インド哲学思想史講義』 宮本啓一 春秋社 (2008)
  • 『ウパニシャッド-翻訳および解説-』 湯田豊 大東出版社 (2000)
  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『ウパニシャッドの思想』 中村元 春秋社 (1990)
  • 『バガヴァッド・ギーター』 上村勝彦 岩波書店 (1992)

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