ヨガ文献で判明!「シャウチャ」本来の意味と物凄い効果とは

ヨガ哲学「シャウチャ」とは?本来の意味と凄い効果を「ヨーガスートラ」で確認

ヨガ哲学に「シャウチャ(清浄)」という教えがあります。
この「シャウチャ」を日常生活で実践する方法として、よく例に挙がるのは、掃除・片付け・断捨離などの身の周りの整理整頓です。
確かに、キレイに整った空間というのは、心までスッキリ軽やかにしてくれます。

しかし、ヨガ哲学の「シャウチャ」とは本来、掃除のことではありません。
「シャウチャ」の本当の意味は、「体と心を清らかに保つ」こと。
身の周りの掃除は、「シャウチャ」の拡大解釈の一例にすぎません。

このように、掃除や片付けのことだと勘違いされやすい「シャウチャ」の教え。
今日は、「シャウチャ」の出典元「ヨーガスートラ」において、「シャウチャ」の定義や実践のメリットはどのように説明されているのか、確認していきましょう。
新米インストラクターさん、ヨガ哲学に興味がある人におすすめの記事です。

「シャウチャ」の基礎知識を文献でおさらい!

シャウチャの意味を「ヨーガスートラ」の本文からチェック

「シャウチャ」の出典に関する階層構造は、
ヨーガスートラ > ヨガ八支則 > ニヤマ > シャウチャ
と、なっています。
それでは、詳細を見ていきましょう。

シャウチャの出典はヨガ最古の教科書「ヨーガスートラ」

シャウチャのもともとの出所は「ヨーガスートラ」というサンスクリットの文献です。
「ヨーガスートラ」とは、インド哲学の一派ヨーガ学派の根本経典で、学者パタンジャリによる編纂とされています。
学術的には、「ヨーガスートラ」が現在の形になったのは5世紀頃とされています
「ヨーガスートラ」の内容は、精神統一修行としてのヨガの定義や目標、実践方法についてです。
「ヨーガスートラ」は、いわばヨガ最古の教科書。ヨガインストラクターの必読書です。

シャウチャは、ヨガ修行法「ヨガ八支則」のうち「ニヤマ」のひとつ

さて、「ヨーガスートラ」のヨガが目指すのは、深い瞑想の境地で、この状態を「サマーディ」と呼びます。
サマーディ達成メソッドのひとつが、有名な「ヨガ八支則(アシュターンガ・ヨガ)」。
「ヨガ八支則」とは、八部門からなるヨガの実践方法です。

シャウチャは、「ヨガ八支則」の八部門のうちの、二部門め「ニヤマ」における第一の項目です。
「ニヤマ」とは、ヨーガスートラが推奨する生活習慣。個人が大切に守っていくルールのことで、シャウチャを含め5項目から構成されます。
「ニヤマ」の日本語訳には、「勧戒(かんかい)」「内制」「気をつけるべきこと」などがあります。

「ヨーガスートラ」からシャウチャ本来の意味と効果を知る

それでは、「ヨーガスートラ」でシャウチャがどのように説明されるのか、具体的に見ていきましょう。
ヨーガスートラで、シャウチャが登場する詩節は、第2章32節、40節、41節の3つ。

シャウチャは2種類! 体の浄化と、心の浄化

まずは「ヨーガスートラ」第2章32節を見てみましょう。
ヨガ八支則のニ部門目「ニヤマ」の5項目が列挙されます。

「ヨーガスートラ」第2章32節

シャウチャ(体と心の清浄)、サントーシャ(満足)、タパス(苦行/辛抱)、ソヴァーディヤーヤ(聖典の学習)、イーシュヴァラ・プラニダーナ(イーシュヴァラへの専念)が、ニヤマ(勧戒)である

参考文献:中村元 (1996), 本多恵 (1978)

この第2章32節に対する、ヴィヤーサという学者の権威ある解説(ヴィヤーサ註解)を見ていきましょう。シャウチャについてより詳しく説明されています。

註解によると、シャウチャには外面的なものと、内面的なものの2種類があります。
外面的なシャウチャとは、土や水などで身体を清めること、祭祀の供物を食べること、といった身体的な浄化によって、肉体の清らかさを保つことです。
一方で、内面的なシャウチャとは、心の汚れを拭い去るーつまり、精神的な浄化によって、心の純粋さを保つことです。

シャウチャによって、身体へのこだわりなくなり、関心は精神面に向かう

シャウチャの効果は、「ヨーガスートラ」第2章40節、41節で述べられます。
「ニヤマ」の他の項目は、1項目に対し1つの詩節で表現されますが、シャウチャだけは、わざわざ2つの詩節で表現されます。
シャウチャは、ヨガ修行に有効かつ重要な教えだと推測されます。

ではまず、第2章40節を読みましょう。

ヨーガスートラ」第2章40節

シャウチャ(体と心の清浄)によって、自分の身体を嫌悪し、他人に触れなくなる

参考文献:中村元 (1996), 本多恵 (1978)

第2章40節に対するヴィヤーサ註解では以下のように補足されます。

シャウチャの実践者は、身体は本来不快なものだとわかって、身体に執着しなくなる。たとえ他人と接触を断って、身体を洗い清めても、身体的な清浄は達成されない。だから、全く浄化されていない他人と接触するなど、できようもない。

「ヨーガスートラ」第2章40節で述べられたシャウチャの効果は、身体というものに重きをおかなくなる、外面的な肉体や、他者との触れ合いへの関心が薄れることです。
そして、やがては自分の心・精神という内面に注意が向かう準備となるのです。

心に5段階の変化を起こす「シャウチャ」の効果とは

次に、第2章41節を見てみましょう。

「ヨーガスートラ」第2章41節

また、シャウチャによって、純質が浄化され、気分が良くなり、精神が集中し、感覚器官が制御され、自己直観するにふさわしい力が身につく

参考文献:中村元 (1996), 本多恵 (1978)

シャウチャ実践による内面的な効果が5つ述べられました。
該当するサンスクリットとともに、以下にリストアップします。

シャウチャの5つの効果(ヨーガスートラ第2章41節)

  1. 純質の浄化 (サットヴァ・シュッディ)
  2. 気分が良くなる (サウマナッシャ)
  3. 精神の集中 (エーカ・グリヤ)
  4. 感覚器官の制御 (インドリヤ・ジャヤ)
  5. 自己直観への適応性 (アートマ・ダルシャナ)

「ヨーガスートラ」第2章41節に対するヴィヤーサ註解によると、シャウチャ実践の5つの効果は、因果関係をもって順番に作用します。

つまり、シャウチャを実践すると、以下のような順番で内面が浄化されます。

シャウチャを実践するとまず、心の性質としての純粋性が高まり、心がスッキリと明るく軽くなります。
そのことによって気分があがります。
そして、気分があがることによって精神が集中します。
そして、精神の集中によって感覚のコントロールが起きます。
そして最後に、感覚のコントロールによって自己をありのままに観察する力が養われます。

「ヨーガスートラ」第2章41節で述べられたシャウチャの効果は、心の純度を上げ、やがては自己を見つめる準備が整うことです。

シャウチャとは、体と心の浄化で自己直観力を養うこと

ヨガ哲学の教え「シャウチャ」について、出典である「ヨーガスートラ」から、確認しました。

まず、シャウチャは、自分自身の身体と心を、常に清らかに純粋に保つ心がけです。
シャウチャは「ヨーガスートラ」において、複数の詩節で表現されます。
ヨガ修行者にとっていかにシャウチャが大切な習慣であるかが分かります。

そして、シャウチャには2種類あり、それは外面的な身体の浄化と、内面的な心の浄化です。
さらに、シャウチャには複数の効果が列挙されます。
シャウチャを実践すると、身体に価値を見いだせなくなり、自然と自分の心に注意や関心が向かいます。
やがては、1)純質の浄化→2)気分が良くなる→3)精神の集中→4)感覚器官の制御→5)自己直観への適応性、という5つのステップを経て最終的に本当の自分を見つめる力が養成されます。

「ヨーガスートラ」におけるシャウチャ・浄化の対象は、あくまでも自分の身体と心であって、身の周りや環境ではなかったのですね。

日常生活でのシャウチャとは|体の浄化

さて、シャウチャの本来の意味と効果が分かりました。
シャウチャの実践方法は、ヨガの練習場面では、身体の浄化をハタ・ヨーガのクリヤ(浄化法)で、心の浄化を瞑想などで行う、ということになるでしょう。

ここからは、現代の日常生活でどのようにシャウチャを実践するか、考えてみましょう。
まずは、自分自身の身体を、清潔に健康的に保つこと。
例えば、手を洗う、歯を磨く、肌や爪を整える、眠る前にはコンタクトレンズを外す、清潔な衣服を着る、古い食品を食べないようにする、便秘を解消する、などが挙げられますね。

体の浄化としてのシャウチャの一例|手を洗う

日常生活でのシャウチャとは|心の浄化

そして、自分の心が洗われるような体験を大事すること。
逆を言えば、自分の心をモヤモヤドロドロにさせるような行いや習慣はやめる、ということ。
例えば、自然の中で過ごす、美しいものに触れる・聴く、心から好きなことに取り組む、たまにはSNSを控えてみる、人間関係のストレスを減らす、などが挙げられます。

心の浄化としてのシャウチャの一例|自然のなかで深呼吸をする

他にも、様々な具体的な実践の例が挙げられそうですね。いかがでしょうか?

掃除や片付けも、自分の生活環境を清潔に保つことですから、身体や精神の衛生に大いに役立ちます。
義務感からではなく、嫌々・渋々でもなく、自分自身のためにすすんで行う掃除や片付けは、もちろん「シャウチャ」ですよね!

大切なのは、本来の意味や効果を知ったうえで、自分に適したシャウチャとは何かを自分で考え、自分のために取り組むこと。
出来ることから、日々実践していきましょう!

参考資料

  • 『やさしく学ぶヨガ哲学 ヨーガスートラ』 向井田みお アンダーザライト (2015)
  • 『ヨーガの思想』 山下博司 講談社 (2009)
  • 『ヨーガとサーンキヤの思想』 中村元 春秋社 (1996)
  • 『ヨーガ書註解 – 試訳と研究 』 本多恵 平楽寺書店 (1978)

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